成人発達理論とは
人はいくつになっても成長できる。
そんな考え方を示すのが、成人発達理論です。
ただし、思春期迄の成長とは違い、人によって大きくその成長度合いが違うのが大人の成長です。
ここでは、成人発達理論を紐解き、大人の知性はどうすれば発達していくかを見てまいります。
Contents
成人発達理論の始まり
1980年代に考えられていた人の知性の発達
かつて、人の知性の発達は、一定年齢で止まってしまうと考えられていました。
そのイメージをグラフ化したものが以下の図です。
当時も、若い人より年長者のほうが、能力を発揮している事実があることは認められてはいました。
しかいそれは、経験の賜物という考え方が支配的でした。
知性の質的な向上が行われたのではなく、同じ知性からより多くの成果を引き出す方法を学習した結果と考えられていたようです。
つまり、当時は大人の知性の発達には多くの学者は否定的だったのです。
成人発達理論のきっかけ ~脳の可塑性
脳には可塑性があることがわかってきました。
可塑性というのは、状況に合わせて柔軟に変化できるという事。
人の脳は、成長期でも、成熟期でも可塑性をもちます。
多数の人への30年にわたる調査の結果、
・人間の知性は、大人になってからも年齢を重ねるにつれて向上していく
・同じ年齢層のなかでも、知性のレベルには人によって大きな開きがある
という事がわかりました。
さらに、知性の発達プロセスは常に均一のペースで進むわけではなく、
発達が急速に進む変革期と、発達がほぼ止まる安定期が交互に現れるのです。
それを模式的に表すと、以下のようになります。
この模式図には3つの大地が出現しています。
実はこれは、適当に描かれたものではなく、実際の多数の知性レベルを測定した時に現れる区切りです。
これを根拠に、大人の知性には三段階の区切りが見出されると考えられます。
日本で知られる成人発達理論
構造発達理論:ロバート・キーガン
成人発達理論は、あまり日本で取り上げられる機会は多くないようです。
その中でも、比較的日本でも受け入れられているのが、構造発達理論と言われるロバート・キーガン博士の考え方です。
ここでは、大人の知性を3段階に分類して、それぞれの特徴を整理しています。
前節での研究はまさに、ロバート・キーガン博士による研究です。
その三つの大地をそれぞれ、低い所から、
- 環境順応型知性
- 自己主導型知性
- 自己変容型知性
と分類しています。
以下、夫々について見てまいりましょう。
環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)
キーワード
- チームプレイヤー
- 忠実な部下
- 大勢順応主義
- 指示待ち
- 依存
特徴
- 周囲からどのようにみられ、どういう役割を期待されるかによって、自己が形成される
- 帰属意識を抱く対象に従い、その対象に忠実に行動することを通じて、一つの自我を形成する。
- 順応する対象は、主に他の人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方である。
解説
大雑把なイメージでいうと、周囲の環境に溶け込むタイプ。
自発的な発言というよりも、誰かが決めたことに従って動く傾向が強い。
自己主導型知性(セルフオーサリング・マインド)
キーワード
- 課題設定
- 導き方を学ぶリーダー
- 自分なりの羅針盤と視点
- 問題解決思考
- 自律性
特徴
- 周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、まわりの期待について判断し、選択を行える。
- 自分自身の価値観やイデオロギー、行動規範に従い、自律的に行動し、自分の立場を鮮明にし、自分に何ができるかを決め、自分の価値観に基づいて自戒の範囲を設定し、それを管理する。こうしたことを通じて、一つの自我を形成する。
解説
大雑把なイメージでいうと、環境を見据えながら、自らの価値判断を行うことができる人を指すと考えられます。
自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)
キーワード
- メタリーダー
- 学ぶことによって導くリーダー
- 複数の視点と矛盾の受け入れ
- 問題発見志向
- 相互依存
特徴
- 自分自身のイデオロギーと価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる。あらゆるシステムや秩序が断片的、ないし不完全なものなのだと理解している。これ以前の段階の知性の持ち主に比べて、矛盾や反対を受入れることができ、一つのシステムを全ての場面に適用せずに複数のシステムを保持しようとする。
- 一つの価値観だけ抱くことを人間としての完全性とはき違えず、対立する考え方の一方にくみするのではなく両者を統合することを通じて、一つの自我を形成する。
- 順応する対象は、主に他の人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方である。
解説
大雑把なイメージでいうと、様々な価値観を受入れて、それらを柔軟に取り込んでいくイメージと考えられそうです。
参考文献
『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』ロバート・キーガン (著), リサ・ラスコウ・レイヒー (著)